今週のお題「夏に聞きたい、怖い話」“7月13日金曜日”

今日は……。
7月13日金曜日、しかも仏滅である。

じめじめ暑くてうっとうしい日だが、こんな日にならではの話をしたいと思う。若干の記憶違いはあるかもしれないがご容赦願いたい。

それは、今から四十年近く前の話になる。

東京の新宿界隈で、ある事件の容疑者を追っていたふたりの刑事がいた。
飲食店に訪れた容疑者達に、先輩格の刑事は同行を促した。だが、スキをついた二人組の犯人は、隠していた拳銃を発砲した。

撃ち返せず崩れ落ちる刑事、彼を助け起こす若手刑事は、犯人を追うことができず取り逃がしてしまう。
若手刑事は、この事件の捜査を焦るあまりにミスを連発する。係長やベテラン刑事からの叱責を受け落ち込む彼だが、ベテラン刑事からのアドバイスを受け原点に立ち戻って考えた。

先輩刑事があの飲食店に行ったのは、馴染みの情報屋からのタレコミだ。裏を返せば、その情報屋は犯人と何らかの繋がりがあるのではないか?

情報屋を見つけた若手刑事は、犯人のところへ案内するよう促す。独断専行の単独行だ、後から仲間たちが応援に来るという保証もない。

バスに乗りこむ刑事と情報屋――刑事は懐に小型の無線機をしのばせていた(何しろ携帯電話なぞ無い時代だ)が、情報屋に気取られぬよう、「次のバス停は○○か、まだ先かい?」と、さりげなく口に出すしかない。無線を傍受して、後から追うベテラン刑事も焦る。
やっと着いた目的は、人気のない資材置場。
立ち去ろうとする情報屋に、刑事は言う。
「わかってるんだ、アンタ、俺をはめる気だったんだろう?」
あわてる情報屋、そこに銃弾が飛んでくる。
とっさに物陰に隠れる刑事と情報屋だが、二人の犯人は更に拳銃を撃ってくる。刑事も撃ちかえすが、1対2では勝ち目はなかった。弾切れの拳銃を手にした刑事に、悠然と近づく犯人たち。
彼は死を覚悟した。

そこへ――やっと応援が到着した。今度こそ逃げることもできず逮捕される犯人たち。
九死に一生を拾った若手刑事は大いに安堵し、刑事部屋で上司や先輩たちからのねぎらいを受けることができた。
だが彼には、ひとつやり残したことがあった。
「俺、これから病院行ってきます」
撃たれて入院中の先輩刑事に、事件解決の報告をするのだ。

いささか遅い時間で、先輩は鎮静剤も効いているのか眠っていた。
その先輩に、彼はつぶやいた。
「俺は生きててよかった、刑事になってよかったよ」

病院を出た彼は、夜道をとぼとぼ歩いて帰ろうとして尿意をもよおした。工事現場の暗がりに飛び込み、用をすませて一息ついたところで、

何者かに腹を刺された。

力を振り絞り、その相手を取り押さえようする若手刑事。だが、犯人は返り血を浴びながらも財布を奪って逃げて行った。

生きていてよかった、と先輩につぶやいた若手刑事、だが彼はその場にへたり込み、力尽きた。

翌朝――、
太陽の日差しの下、刑事部屋の仲間たちは苦渋の面持ちで、
若手刑事の遺体を見つめていた。



七月十三日金曜日
マカロニ死す