マニア様がキテる ――メガロ刑事(10/11)

“ちょうど、篤子を失った事件が起こったのは一年前……。同じような状況のもとだった。
たしかに、この江本が俺を恨み続けるのは間違っていない! 江本の妹の篤子を俺が愛しさえしなければ、俺を憎む犯人によって、彼女はレイプされ撃ち殺されずにすんだんだから
 
第14話「青春挽歌」
現場へ急行する覆面パトカー、その後席には江本警視正と見城。
「だから、広域捜査官としてのメガロ刑事を育成するべきなのだ!
いつものことだが、こういった事件が起きると警視庁と県警が縄張り争いよろしく睨みあう……」
「銃の使用は許可されるのですか、警視正?」
「現場を見れば分かる!」
日の落ちた県境の現場、片側二車線の鉄橋の中央に、カージャックされたキャンピングカー。それを橋の両側から取り囲む警官隊。
「こちら側が警視庁………向こう側が神奈川県警!
一つの獲物を前にして双方がすくんでしまっている始末だ………」
犯人の要求は支離滅裂。「五億円要求したかと思えば、巨人を何としても優勝させろだの、総理大臣に会わせろだのと…………」「変質者か、それとも麻薬患者(ジャンキー)か?」「恐らく、シャブ中かと……」
中の様子は未確認だが、親子3人が人質の模様。犯人はショットガンで武装し、警官2名と通りがかりのドライバー2名が負傷している――。江本は部下に集音装置を用意させる。
見城は空を見上げ「まずいな、あのヘリ近すぎる」
集音装置からは犯人の声。「クソウ、警官だかマスコミだか知らねえが、ヘリまで動員しやがって!」
犯人は警察の装甲車に向けて1発、更に上空のヘリに1発発砲。被弾したヘリは辛うじて川原に不時着する。
「ヒィヒッヒヒヒ、ざまあみやがれってんだ! この俺をウジ虫みたいに扱いやがって!」
江本は宣言する。「神奈川県警に伝えたまえッ! この事件の今後は、警察庁の江本警視正が全責任をとると!」見城に一瞥をくれる。「コレから先は広域捜査官、メガロ刑事サンの出番だ!」
くわえ煙草を吹き捨てる見城。――彼一人で立ち向かうのは危険すぎる、警官隊を突入させるべきだと主張する警視庁側。「同時なら県警サイドも納得するでしょうから!」
「それが出来るなら、われわれが来る前にやっていたらどうかね!」一蹴する江本。
こういう任務には慣れていますから、と言い、笑みを浮かべる見城。……二人の視線が交錯する。見城の心中に去来する、一年前の忌まわしい事件。憎悪のまなざしを向ける江本。
――集音装置からは、更に車内の様子が伝わる。
「言う通りにしねえと、このガキも亭主も蜂の巣にしてくれるぞッ!」男は銃を向けながら、女性の髪を引っつかみ引きずり倒す。
「俺はもうポリ公を何人も殺しているんだ! 今さらお前たちを殺すのに何のためらいもねえぜッ!」
「あ……あなた」訴える妻に対し、夫は娘をかばう様に抱きしめうずくまる。――絶望し、服を脱ぐ妻。
外部では、警視庁と県警のにらみ合いが続き、突入命令はまだ出ない……歯を食いしばる見城。
犯人の凌辱は更に続く。遂に激昂した夫は飛びかかっていくが、逆に殴り倒される。泣き叫ぶ子供、興奮する犯人、子供をかばう母親の叫び――遂に見城は、靴を脱ぎ捨てると飛び出していく。
足音を立てず、しかし素早くキャンピングカーに接近する。しかし
「見城、やめろッ! とまるんだ、無茶だッ、人質がいるんだぞッ!」県警側からスピーカーの音声が轟く。接近は犯人に知られた!
「行け、見城ッ、行くんだッ!!」叫ぶ江本の顔に汗がにじむ。遂にキャンピングカーの窓から突き出されるショットガン。2発の銃声が轟き、無数の散弾を一身に浴びて倒れる見城。その姿を目の当たりにし、驚愕する江本と本庁警官隊。
だが見城は、傷つきながら上体を起こし照準する。
「そこか〜〜っ!!」
続けざまに.357マグナムを発砲する。6発の弾丸は車体の反対側まで貫通し、犯人の叫びが短くあがる。
「恐らく………しとめたはずだが………」
傷ついた身体を引きずって接近する見城。だが――撃たれた犯人の最後の力か倒れたはずみか、更に1発の散弾。
再び倒れる見城。「どじったな………」呻きながら再度身体を起こし、空のマグナムをキャンピングカーに向ける。
窓から落ちるショットガン、車内では事切れた男。車体の貫通した弾痕越しに見城の姿。
遂にドアが開く。マグナムを向ける見城だが、親子三人が出てきたのを確認して銃を降ろす。
「見城――ッ」叫ぶ江本を先頭に、その場に駆けつける警官隊。
「な……長すぎ……たぜ………つら……かった」呟く見城。その言葉に愕然とする江本。
「こ……これでやっと…………やっと、篤子ッ……おまえのところへ行ける……(ゴホッ)
あ……篤子ォ……い……いま……、……行くからな………」
その場に座り込み、マグナムを握り締め絶命する見城。

静かに眼を閉じ、呟く江本。
「見城! お前の死は無駄にはさせん……」
戦って散った男を、敬礼で見送る江本と警官隊。

「警察機構の中に、必ず広域捜査官(メガロデカ)という職制を作ってやる。
さらばだ見城重吾ッ! さらば……!!」