「エロイカより愛をこめて」 弾幕はパワーか! ――火力を模索せよ。

マグナム、その響きは、恐らく世代を超えて“とにかく凄まじい代物”という印象を与えるだろう。
日本においては、恐らく大藪春彦の小説や、望月三起也の劇画あたりで少しずつ広まっていたろうが、やはり決定付けたのは1971年(日本公開72年)の映画「ダーティハリー」だろう。

サンフランシスコ市警殺人課の鬼刑事ハリー・キャラハン、当時ハンドガン・カートリッジとしては世界最強クラスの.44マグナム弾を使用するS&W・M29を操り、のっけから銀行強盗を豪快に吹っ飛ばしている。
現実にはあそこまで人体を吹っ飛ばすほどのパワーは無いし、ゲッタウェイ・カーがストップしたのは屋台と消火栓にぶつかったからだ。――でも、とにかくインパクトはあった。
.44マグナムは凄い! その刷り込みは続編「MAGNUM FORCE(ダーティハリー2)」や「タクシー・ドライバー」で加速され、更には日本でも和製ハリー的存在が登場する。1975年のドラマ「俺たちの勲章」の中野刑事(松田優作)と、同年の劇画「ドーベルマン刑事」の加納刑事だ。むろんそれ以外でも劇画「ワイルド7」のオヤブンは、誇張バリバリのパイソン.357 (ワイルド隊員で実質唯一の大口径使い)で大いに気を吐いていたし、次元のコンバットマグナムだって強烈だった。
更に、トイガン界においては1977年の第二次モデルガン法規制、いわゆる「52年規制」のあおりをうけて、金属製モデルガンのラインナップが大打撃をうける。その中で業界の命脈を保つために売れるネタ、つまりマグナムガンとして、比較的容易に他社製品をコピーできたブラックホーク系や、話題のオートマグは格好の商品だった。
……といった事を、同人誌「SIGHT」誌で読んだ記憶がある。ちょっと現物が見つからないので記憶モードだが。(見つかったら、このあたりは修正します)

で、恐らく「エロイカ」を初期からほぼリアルタイムで読んでらっしゃるベテラン諸氏は、当時の彼氏なり兄弟なり友人なり――男に生まれて銃器に関心を一度も抱かないというのは、中学生にもなって「橋の下の湿っぽい雑誌」を自宅に密輸せんと試みないくらい一種不健康と言わざるを得ません――から「マグナムはすげーんだぞ!」と聞かされたことがあるのではなかろうか、と思われる。最初は「ふーん」と聞き流していても、少佐の雄姿をみた瞬間、彼氏や兄弟のモデルガンを巻き上げようと画策した事があったろう。(ま、穏当に「Gun」誌やモデルガンを買おうとして「女の子がこんな物買っちゃダメだよー」とか一悶着あった、というほうが多かろう)
私は当時のマグナムブームよりちょっと後になってから、モデルガンというものに興味を抱いた。実際にモデルガンを手にしたのは更に後になってから、だが――。

時は流れ、2003年のグアム、T.O.R.Iのレンジで、私はコルト・アナコンダを手にしていた。
本当はS&W・M629が撃ちたかったのだが、トリガー不調で撃てなかったのだ。当時ここで保有していた.44マグナムは、他にIMIデザートイーグルしかなく、マグナムオートという点ではそちらにすべきだったのだが――私はリボルバーの方が好きだったのだ。
フィンガー・チャンネルのついた、前後幅の広いパックマイヤー製ラバーグリップ装着。ステンレス地肌の6インチ銃身で、銃口の上には小さなマグナポートが開いていた。
「コッチの方が629より撃ちやすいヨ」とは言われたが――確かに、銃身下のエジェクターロッド・シュラウドが銃口近くまで伸びウェイトとして効果を発揮、ましてマグナポートで発射ガスを上方に噴射するから跳ね上がりは軽減される。
しかし――その無理してパイソン風に仕立てた“拡大版キングコブラ”は、それほど好きな銃ではなかった。
その直前まで撃っていたM15より重く、カートリッジは前日に撃った.45オートのそれより長かった。
M15は片手で楽々撃てた――しかし、こいつは? 理屈では大丈夫だと判っていても、しかし、しかし?
(続く)