「エロイカより愛をこめて」さあ、ジョン――あとはバラを撃つだけだ。

自動拳銃というのは、大なり小なり発射時の反動や火薬ガス圧を利用してメカニズムを作動させる。拳銃のサイズで強力な、反動が強烈なマグナム弾薬を使うには、それなりのメカニズムを要すると考えられた。
イデアはともかく設計の煮詰めや量産性に問題があった
.44オートマグ



は「弾丸を発射する実用銃」としては結局時代の波に消えていったが、マグナムオートのパイオニアという立ち位置、そしてその美しいルックスや一種の悲劇性はガンナッツを惹きつけてやまない。私はスーパーカーブームより少し後の世代だが、例えるならランボルギーニ・イオタのような存在だろう。

私はあの世代ならアルファロメオモントリオールを選びますが! ふははは。(虚)

で、当時はまだまだマグナムブーム真っ最中、のはず。トイガン界で伝説的な(だよな)同人誌「SIGHT」誌において、主筆の皇帝(すめら・みかど)氏が当時のモデルガン規制(52年規制)とからめて、ルガー・スーパーブラックホークについて語っておられたけれど…….44オートマグは、MGC製のプラ(ABS樹脂)製モデルガンの他に国際産業(コクサイ)とマルシンから金属(亜鉛合金)製モデルガンが出た。いささか推測になるが。当時は専門店以外、というか普通のおもちゃ屋でもモデルガンが買えたらしい、となると、MGC製のスタンダード(手動式)モデルあたりは、作画資料として最も入手しやすい“マグナム”のひとつだったのではなかろうか?

――1970年代後半のある日、ある玩具店にて、妙齢の漫画家とおばちゃんの会話。
「すいませーん、マグナムのモデルガンって、どれですか?」
「はいはい、弟さんか甥っ子さんにプレゼント? ウチにあるのは……コレとコレね、パイソン・サンゴーナナってのと、ヨンヨン・オートマグってのと」
「あ、私マンガ描いてまして、アクション物なんですけど、その資料に使うんです……あ、ヨンヨンマグナムっていうのが欲しいんですけど」
「あらまあ、漫画家さん? どんなお話なのかしら(以下、子供が漫画好きだから頑張ってねだけど子供が勉強しなくてあと教育的になんとかんとかまあ頑張ってうんたらかんたら)。えーと、ヨンヨンは今、オートマグってのしかないのよー。ホントは他に、なんての? ダーティーハリーのとか、ブラックホークフォークっていうのがあるんだけど」
「うーん、ブラックホークはあるし…じゃ、それでいいです。……あ、包装はいいんで、領収書ください!」
てな事があったのかも知れない。
……今、「アンタすげえガッカリだよ!」という視線が飛んできたような気がする。

まあ、メカニック担当のアシさんのチョイス、というか、二人で(あるいは他のスタッフも交えて)少佐の使う銃を検討していった、と考えた方が順当であろう。
ぶっちゃけた話、少佐登場の“”No.2 鉄のクラウス”時点では……メカニック的に論評に値するのは伯爵のランボルギーニミウラと少佐のレオパルト戦車しかなかった。はっきり機種名の判る銃器は“No.3 アキレス最後の戦い”まで待たねばならない。つまり、No.2の頃にメカ担当のアシスタント氏が参加され、氏の提言で銃器関連も、ストーリーに絡めたアイデアが出された……というところではないだろうか? なお、No.2〜3の間に描かれた、「イブの息子たち」番外編“グッド・カンパニー”でゲスト出演した少佐の拳銃は、見たところスーパーブラックホークである。「やっぱこれ、ドーベルマン刑事の真似みたいで嫌ですねぇ、変えましょう」とか。

もしかしたら、休憩時間中に件のメカ担当アシさんがモデルガンをドカンドカンと発火させて楽しんでいたかもしれない。というより、青池先生に“銃というのはこうやって使うのですヨ”とか実演していた、という可能性の方が高かろう。
「もーっ、やっかましーっ! ……何ヨそれ、火薬で動くの? ふんふん、このタマ(カートリッジ)に火薬詰めて、ガチャッとやって(スライド引いて)、ふんふん……ねえ、“さあ、ジョン、あとは引金を引くだけだ”って何ヨ、ジョンってダレよ? 引金引きゃいいのね?“ドカン”
キャーッ! (薬莢が)飛んだ飛んだ! スゴーイ! 肩で反動感じたー! 本物の反動はもっとズシンってくるんでしょ!?」
当時は紙火薬方式が主流で、現在の様なキャップ火薬が登場するのは1979年頃、MGC製ウッズマンとM59あたりが皮切りか。

んで、少佐はマグナムを片手で撃てる、という事でその強烈さをアピールした。
疾走する自動車のエンジンを1発で破壊しストップさせるモンスターガン、その反動は凄まじく、常人にはマトモに撃てやしない……それを片手で撃つ! すごいヒーローだ!
やがて1980年代。ハワイやグァム、あるいはサンフランシスコあたりで射撃ツアーに参加する日本人も出る。新婚旅行などで、観光客向けに(コストダウンのため火薬詰めなおしで)火薬を減らした弾で――反動に過剰に怯えながら撃って「反動がすごい! やっぱマグナムはマトモに撃てない」と思った人も居るかもしれない。
銃器雑誌とかを熟読しない人にとっては、「マグナムは反動が強くてまともに撃てない」というのが常識、というより「真実」だろうから――。

やがて私は、.44マグナム――火薬を減らしてない新品の弾で、片手で撃つことになる。
(続く)