「エロイカより愛をこめて」マグナムはロマンを背負い、そして現実を撃ちぬく。

さて、ちょっと仕切りなおししよう。
エロイカより愛をこめて」の実質的主人公“鉄のクラウス”ことクラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐。彼はシリーズ中で様々な拳銃を使ったが、シリーズ初期においてAMC.44オートマグを数回使用した。
スパイの拳銃としては型破り、といわざるを得ない代物だが、これが少佐のイメージを決定付けた重要なファクターの一つである事に、ベテラン読者諸氏は異論はないだろう。
 
隠密行動を旨とする諜報活動。武器を使うとしても、それはなるべく隠匿性を、命中精度やパワーより――その程度や使用状況にもよろうが――重視せざるを得ない。
派手な銃撃戦はなるべく避けるべきだし、そうなると70年代後半〜80年代初頭としては、少佐の部下Z君も使用したワルサーPPKや同系列のPP、PPK/s、ベレッタのM70系、M80系、FNブラウニング・ベビーといった小型〜中型で、.22LR〜.380ACP弾という小〜中口径のオートマティックだろう。ひねったところでS&W・M39ベースの“ASPカスタム”か、デトニクス・コンバットマスター(コルトM1911系の短縮化クローン)、ワルサーP38K(P4ベース短銃身型)といった大口径オートのコンパクト化モデルか? リボルバーであればS&W・M10やM19、M38(M49)ボディガード、コルト・ディテクティブ系やローマンMkIII、ルガー・スピードシックスなど小型〜中型フレームの.38スペシャル弾/.357マグナム弾、それも銃身長4インチ以上でなく2〜3インチ程度のいわゆる“スナブノーズ”だろう。

  ワルサーPPK
 デトニクス・コンバットマスター

S&W・M10ミリタリー&ポリス2in 

S&W・M19コンバットマグナム2.5in

「Z」第1話での「ベレッタかPPK」という台詞は、多分「007 ドクター・ノオ」あたりに端を発するステレオタイプな選択だろう。当時ベレッタといえば.380ACP(9mmショート)弾薬のM1934あたり、あるいは小型の“ミンクス”(恐らくM1934と混同していた人も多かったのではなかろうか)あたりが有名で、それらを想定していたと思われるが?

まあ、少佐のキャラクターとしてはあまり小型なものより、大型に分類される銃の方が似合うのは確か。少佐の使った銃としては、コルトM1911系ガバメント.45オートや、あるいはFNブラウニング・ハイパワー、ワルサーP5、連載再開後のSIG・P226といった9mmオートなどがそれに該当し……これがもっと小さな銃だったら、随分イメージが違ったものになっただろう。


 
SIG・P226
では、No.4 “ギリシアの恋”で初登場した.44オートマグは?
真面目に考えたら……ま、現代だったら「何その中二病なチョイス?」と一蹴されるだろう。だがそれがいいあの時点で「マグナムを片手で撃てる、常識外れの“鋼鉄の男”!」というイメージ、言い換えれば“確固たる実績”を打ち立ててしまったのだから!
(続く)