マニア様がキテる――「メガロ刑事」(2/10)

“篤子……お前が死んじまってからこっち、何をやっても生きてるって気がしねえよ………。
 この痛みすら…………大して感じねえ…………”

のっけから管轄の壁でトラブルを起こすはみだし刑事。本庁の刑事だからとて神奈川県警にとっては“余所者”にすぎず(そりゃそうだが)、とうとう本庁からも追放される。
そんな狼を利用しようとする警察庁エリートだが、“はみだし者だから捨て駒に出来る”という部分はあれど、更に加えて“妹を死なせた男を苦しませて死なせる”という強く暗い動機。

見城自身、恋人を失った事に加えその兄の憎悪を理解している故の、死を追い求めながらの捜査活動。恐らくは表裏一体の、失われた“生きている実感”を追い求める部分もあったのだろう――と、今にして思う。
「死の危険の中でしか生を実感できない男」の物語、と言ってしまえば陳腐だけど、それでも惹かれてやまない。
 
「特捜刑事」もの劇画というジャンルは当時でも珍しくはなかったろう。少年誌だったり青年誌だったりという差はあるが「ドーベルマン刑事」や「ゴキブリ刑事」、もちろん師匠の「ワイルド7」も。ただこの作品の特色として「管轄」に縛られた現状における「広域捜査」を遂行する刑事、という設定が挙げられる。……というか、特捜刑事ものを描くに当たって“広域”をキャッチフレーズにした警察庁の秘密捜査官ものにしよう、というところだったのではないかな、と思える。折しも80年代初頭は、社会を震撼させた広域凶悪犯罪が耳目を集めていた。
主婦連続麻薬中毒死を追うエピソードでは、江本警視正警察庁のみならず更に上からの指令である事、無論マスコミのシャブ追放キャンペーンが行われている事をふまえ、場合によっては主婦たちへのシャブ密売犯を射殺しても構わん、と命ずる。
「それが主婦達やマスコミへの、我々司法側の回答だ!」
それまで追っていた横須賀の麻薬シンジケートの様な、巨大組織を潰すのがメガロ刑事の任務ではないのか? と見城はいぶかしむ。しかし江本は言う。所轄刑事や麻薬Gメンが犯人を射殺したとあれば、凶悪犯とはいえ人権問題になる。
「その点、君なら…な」
「なるほど、そういうことか……俺なら、あんたが俺の存在を否定すればそれで済む……。
警察庁が直属の殺し屋刑事を飼ってるなんて、誰も信用しねえもんな!」
 
ガンアクション、という視点で見ると、見城の拳銃が当時ポピュラーであった.44マグナム、というかS&W・M29でなく.357マグナム、それもコルト・パイソンでなくS&W・M19コンバットマグナムの4in(グリップはスピードローダー用カットの無い時代の木製オーバーサイズ)。いささか地味にも見える。

M19は“次元の銃”としては確かにメジャーではあるが、“コンバットマグナム”でなく単に“.357マグナム”とだけ称される。
案外、原作者はパイソンあたりを想定していたのかも知れないが、田辺節雄はワイルドのオヤブンとの差別化を図る意味でM19にしたのかも……そのあたりはどうだろうか? ともかく、特捜刑事の使うマグナムとしてはパイソンほど派手でも、M29ほど仰々しくないM19はちょうどよいチョイスに思える。
横須賀シンジケートの一員でもある疑惑の保険金殺人犯、浦上(時期的に、あの“疑惑”の人物がモデルだろう)が
「僕はね、天性の犯罪者なのだ! 殺したいから……殺す!」
と見城に銃を向けるシーンでは、そのワルサーPPK(.32でなく.380、つまり9mmショート弾の方)では、急所に当たらねば致命傷にならず反撃のチャンスを残す事になる、と指摘する。
「その点、同じ9mm弾でも……俺の銃は357マグナム……
ろくに狙う必要は無い。貴様のどこにあたっても、貴様はふっとぶ。腹にあたれば内臓(モツ)が飛びちるぜ。
それでも撃つか! 俺(マト)はじっとしてはいないぜ!」
意外と、.357マグナムが9mm口径だって事は知られてない(桁違いの巨弾だとみんな思ってそうだ)様な気がしただけに、こういう部分が嬉しいんだよなぁ……。
個人的にはM19の様なKフレームで.357ってのはちょっとなー、ではあったけれど、この作品のおかげでM19・4inのコクサイ製モデルガンを買ってしまった。金属用の金型を転用した“ニューコンセプト・シリーズ”と呼ばれた、インナーフレームの無いHW樹脂(当然鉄粉入りの時代)のモデルガンである。
確か、購入したのは“夏エヴァ”の日――1997年の夏、エヴァ劇場版「Air/まごころを、君に」公開日、劇場へ向かう直前に「やまもと」寺町店で購入したのだ。
その時、マルシン製モデルガンのワルサーP38“エクセレント・ヘビーウェイト”とどちらを買うか、土壇場まで迷った記憶がある。確か前後して、毎年恒例の金曜ロードショー「ルパン3世」スペシャルが放送される(された、だったか?)という事もあって「次元かルパンか」みたいな悩み方をしたのだ。価格も確かコクサイM19が14.800円、マルシンP38が12.800円で、その辺も理由だったと思う。
結局、その日の私はM19を買った。そしてポリパテと型取り材(ワークの“型想い”だったか)を使って、プラグリップをちょっと整形した。ローダー用カット部分を埋め、それ以前の旧型っぽくしてみたのだ。塗装はマットブラックで、木目調とかにはしなかった。
(続く)