「なあばす」はたがみよしひさ作品としてはかなりの長期連載であり、途中で安堂と京子の結婚、平九郎の引退、更に三輪のかつての登山仲間・松崎未来(みき)の恋愛スタートという大転換。更に美弥の恋愛展開(大体トラブル)と、平九郎のかつての部下であったベテラン刑事・岩切のセミレギュラー化がマンネリ化を防いだ。
連載初期はだいたい公衆電話で連絡していたのが、後半では「嫌な機械が普及したよな……」とぼやく岩切にみられるように、携帯電話が当たり前になっていく。
しかし「圏外」も当たり前の時代だった。
喫煙シーンもフツーにあるし(夜勤中の医師が自席でスパスパ)、京子の妊娠・出産も「高齢出産」呼ばわり(当時で30そこらのはずだ)――そもそも第一話で平九郎が「安堂と三輪のどっちが」と言ってる時点でまだ23.4くらいか。
……12巻の帯を見ると「Windows版スクリーンセイバーも好評発売中!」とある。
そもそもスクリーンセーバーなんてものがあるなんて事をすっかり忘れていたよ。
約9年の連載期間の間にキャラクターたちは加齢、というか成長し、
……なんか「ヲタクに恋は難しい」のキャラクターたちが脳裏に登場したぞ。
容貌や性格的には
安堂≠宏嵩
三輪≠樺倉
京子≠小柳
美弥≠成海
みたいな感じだろうか。(個人の感想である)
それはさておき、安堂はそこかしこにオンナのいる知性派ゲロ吐き男から、いつの間にか妻と義父(マスオさん状態だ)と、そして息子を大事にするマイホーム名探偵になった。
京子は父の病と過去を知り、遂に自分の気持ちに向き合い「父の娘」から「アレな亭主の女房」ポジに移行。会社と家庭とを問わず実質的ボスとして君臨していく。
平九郎は自らの病と老い、そして過去の因縁を受け入れ、「隠居爺さん」ポジから周囲を見守っていく。
(岩切刑事の過去を知っていてフツーに友達づきあいをする田沼・安堂家というのもなかなかすごいが)
三輪は脳筋なのはともかく、女性に対して誠実なのはそのままに、自分の恋愛をきちんと育てていく方向に進んでいった。
美弥は失恋(だいたい安堂のせい、というのはどうかとは思うが)を重ねながら、世俗の垢にまみれつつ「大富豪の孫」というだけのポジから一人の自立した女性になっていった。
三輪の恋人、未来も三輪との関係を育てつつ、京子不在の事務所をサポートするという存在感を見せ――岩切刑事の場合、既に成長というか老成した状態での登場で、「兵九郎の後輩」というより「安堂の年の離れた親友」となっていった。
(後半から続編的な「ないちる」において、安堂は事実上警視庁捜査一課の嘱託状態である)
さーっと読み直してみると、「昭和から平成」への社会構造の変化を感じる、と言ったら大げさだが、平成世代にこの作品の面白さを判ってもらえるだろうか、と不安になるのである。