平成を彩ったコミック・ラノベに見る個人の記憶――「ぶれいくだうん」

(昨日より続く)

 

矢久我邦武、いや薬学に長け、そのあまりの虚弱体質(ただしベッドの女性相手は除く)に反した天才的推理力を誇る安堂と、その旧友で元警官のラリースト、筋肉派ハードボイルド男の三輪。

更に80年代末の時点でパソコンを使いこなす(ウィンドウズ.95でインターネットが当たり前になるずっと以前である)メガネビューティー、田沼京子。

その父親で元・刑事(新米のうちにあんな経験をしたらなあ……「怖い人」にもなるか)の変なじーさんにして所長、田沼平九郎。

物語は安堂がバラバラ死体を発見し、そして女子高生・稲葉美弥が調査依頼したことから始まる――。

 

「財界の鉄魔人」の孫娘である(金はあるが常識が怪しい)美弥が高校卒業後に事務所の一員となり(進学しろとか揉めなかったのだろうか?)、安堂を巡って京子とライバルに。馬鹿ではあるが基本ストイックな三輪と安堂のやりとりも楽しく(そもそも行動派である三輪がいなければ話が回らない)、そこに所長が入ることで時にガス抜き時に急展開。

 

……第一話の時点で、まだ安堂ちゃんとと三輪ちん、京子って、二十代半ば(前半か)なんだよなぁ。

当時の彼らほどに大人になったという気がしない……。美弥はその子供さ加減をカバーする財力があるからなあ。

 

まあそれはともかく、読み返すと「時代だなあ」と思う部分は多々。

 

バーベルで筋トレ中の三輪に美弥が「ソウルをめざせばよかったのに」(88年五輪)とか、依頼人が「ディスコのお立ち台から落ちて足をネンザしたの」とか。

アフタースキー(死語か?)で「踊ろっかカセットあるし」(既にCDはあったが、CD-Rに編集はなかったか……いやそもそもネットも普及してない時代だ)とか、

美弥の見合い相手の御曹司が「ソアラランクルの二台持ち」(911メルセデスのGでないあたりが、地に着いた金持ち感を感じる)とか、

「去年の夏は涼しかったんだっけ」「今年がここまで暑くなると判ってたら」(93年冷夏と94年猛暑)とか、

ニュース速報で「はたまたインコか」(一連のオウム事件の後だ)とか。

 

金持ちキャラである美弥を配した事で、零細探偵社である田沼事務所の活躍を時に大きく広げる(バブルがはじけたといっても、今よりもっと景気は良かった気がする)余地があり……そして単なる金持ちおバカ娘でなく、写真技術(当然、デジカメなぞ無く銀塩である)のエキスパートというのもポイント高かった。

 

(続く)