平成を彩ったコミック・ラノベに見る個人の記憶――「蓬莱学園」シリーズ

平成ヒトケタを彩ったコミック作品の一つが「なあばす」だが、同じ時代を彩ったラノベ作品として「蓬莱学園」シリーズにも言及しておきたい。

 

遊演体」のネットゲーム、といっても今でいうインターネットを利用したゲームでは無く、郵政公社の郵便ネットワーク(まだインターネットなどなかった、少なくとも勃興期だ)を介したいわゆる「プレイ・バイ・メイル」であり、プレイヤーは1年間の期間限定で、遊演体の提示した世界観において自分のキャラを行動させるのだ。

自キャラの行動を各ブロックのゲームマスターあてに郵送し、その行動結果が小説形式で返送されてくる。

 

それに対する自キャラの次の行動を郵送し――これを一年間繰り返すのである。

 

まあ、私はN(ネットゲーム)95「鋼鉄の虹」とN96「こうもり城へようこそ!」にしか参加していないのだが……思えば「鉄虹」はファンロードに六鹿文彦氏による広告が載らなければやらなかっただろう。あと「こうもり城」って、確か中村哲也氏の商業デビューだったような気もするのだが。

 

ともかく「蓬莱学園」は、生憎とN90「蓬莱学園の冒険!」も、半年間限定のNS94「蓬莱学園の休日」も未参加である。しかし「鉄虹」参加の余波として、当時まだ元気であった「蓬莱閥」の熱気にあてられたというか、関連書籍が多く出ていたのが大きかった。

N90以降の学園生活を描いた――ゲームのグランドマスター柳川房彦氏――、新城十馬(現・新城カズマ)氏による本編(と仮称する)や、後に「フルメタル・パニック!」で一躍名を馳せた賀東招二氏や、……あー、その、非常に強烈な、うん、ラブコメを、おフレンチな書院から出版した事で知られる、雑破業氏などの執筆陣による短編集など、「鉄虹」や「こうもり城」とは離れた部分で、その世界観に魅せられたのだ。

 

先頃の「氷室の天地」で、

「汝がルールを作ってしまえ! 汝が利するルールを相手に押しつけてしまえ!」

と氷室さんは説いた。いやそのなんとなく連想しただけだが、現代(平成初期当時)の日本でありながら、自由な世界を提示した――「生徒総数十万人の巨大学園」

 

その自由な(しかしぐだぐだではない)世界観の中で活動する、自由なキャラクターたちに、魅せられたのだ。

 

本の学校社会からドロップアウトし、事実上追放されながらも「初恋」という行動理念に突き動かされ、周囲を混乱に陥れながらも「初恋の少女」に向かって突っ走る新入生、朝比奈純一。

何よりも秩序を重んじる公安委員にして、純一の暴走に引きずり回されながらも自分の役割を果たそうとする「悪運(バッドラック)ベッキィ」ベアトリス・香沼。

闇カジノ対決から端を発した学園の大混乱、一度は獄に繋がれながらもその博才で捲土重来を果たした天才ギャンブラー、ソーニャ・ヴレーミェヴナ・枯野と、彼女と真っ向から対決を挑む――しかし自身の複雑な立場が更に混乱を呼ぶ令嬢、野々宮雪乃。

女子寮を占拠したテロリストに単身立ち向かわざるを得なくなった(しかも人質そっちのけで)、悪名高いカメラ小僧(というか女子寮不法侵入の常習犯)、三宅八郎

 

ここ十年以上読み返していないし(もしかして二十年くらいか?)、いま読み返したら――あの頃の魔法が解けてしまうのではないか、という恐れすらある。

しかし、「規律と混沌が共存する自由な世界観」はいまだに憧れで、「蓬莱学閥」ではないが、その魅力を後世に伝えたいとは思う。

 

かつて「蓬莱学園の革命! 1」を求め、京都四条の「ブックストア談」(いつの間にか閉店していたのだな……)を訪れた際、

「すいません、富士見ファンタジア文庫の」

「すいませーん! 『スレイヤーズ』は延期なんですよー」

以来、スレイヤーズは未読のままである。