天駆ける少女の物語

マリナ様がみてる(違)

・「天空のリリー」 著者:千田誠行 一迅社文庫

天空のリリー (一迅社文庫)

天空のリリー (一迅社文庫)

第二次大戦中の旧ソ連に、女性パイロットが存在したのを知ったのは……えーと、いつだったろう?
80年代前半か半ば頃、図書館で借りた航空雑誌――多分「航空情報」――で、だった様に思う。
90年代に入ってサトウ・ユウの作品を読んだりしたが――やはりブルース・マイルズ著「出撃! 機動六課魔女飛行隊」が、私にとってそのイメージを確固たるものにしたと思う。(私の読んだのは朝日ソノラマの旧版)
出撃!魔女飛行隊 (学研M文庫)

出撃!魔女飛行隊 (学研M文庫)

“リリー”――リディア・リトヴァグ(大抵は“リトヴァク”表記か?)。後にスターリングラードロサ・ギガンティア白バラ”として知られる女性エースパイロットとなる彼女だが、しかしこの作品での彼女は、まだ一介の訓練生にすぎない。
というより、この作品自体があくまで「史実をモチーフにしたラノベ」であって、史実に必ずしも忠実な戦史ではない――という事を念頭においたほうがいい、かもしれない。

私の場合は先にマイルズの著作を読んだので、最初は作中のリリーの描写や、サロマーティン大尉の存在(二人が出会うのは実戦部隊で)に違和感を感じたクチだが、戦闘機パイロットを目指す少女達の成長物語として充分に楽しめる作品だった。
成長物語とくれば主人公のライバルはつきもの。ひとりで何でもやろうとする自信家のリリーと、クールな秀才のオルガという構図は――どこか「トップガン」をほうふつとさせるが、へんに恋愛要素(……いや、マベリック×アイスマンじゃなくてね?)が入らない(少なくとも、濃すぎない)のもいい。
個人的に好きなのは、甘いもの欲しさに“野菜でお菓子を作ろう”とチーム揃って深夜食堂厨房に潜入するあたり、旧軍の話におけるギンバイに相当するエピソードだろうか? 少女だったらこうであってほしい……と思わせる、こういうあたりがうれしい。――加えて、断髪令(違)と冷却水のエピソードとか。
空の上の猛訓練ばかりでなく、地上に降りての少女達の生活。そしてそれを見守るマリナ・ラスコヴァとサロマーティン。こうしたストーリー全体を通して感じたのは……なんというか、こう、雰囲気が世界名作劇場みたいだなあ、と。

少し物足りないのは、ドブキン教官が序盤以降出番がないこと、か。――女子戦闘機連隊がいよいよ実戦に、という時期になって、彼はどんな顔をしていたのだろうか?