マニア様がキテる――「白熱(デッドヒート)」(中編)

一千万円の宝くじを当てた新庄卓。彼はその金をつぎ込み、セリカLBを手に入れた。

この時代のトヨタ車はカッコいいよな。

各部に手を加え、ターボチャージャー武装したそのセリカが納車されると、卓はあっさりチェリーを弘に譲り渡す。
そして三百万の金を沙智に残し、彼は旅立つ――。沙智は引き止める。名古屋ナンバーだけを手がかりに探し出すなんて、そしてそれに何の意味があるの!
卓は言う。借りは返さねばならん、それは女には理解できないものだ!

ゴールドメタの恐ろしく速いスカG、その姿を追い求め、卓は手始めに名古屋へ向かう。金曜の夜、地元の街道レーサー“ファイヤーバード”達と競ることで、その情報を手に入れる。

ターボの加速でチギられるファイヤーバードのみなさん。
「ゴールドメタリックのスカG………ファントムだっ!」
どこからとも無く現れ、街道レーサー達を挑発し事故らせる、まるで通り魔の様な奴だ。悔しいが、車も腕も度胸もいい、しかも誰もドライバーの顔を見たものはいない――。

原作のストーリーをほぼ忠実にトレースしているが、多分ページの尺の都合だろう、描かれていない部分も多々ある。
例えば、原作――「GTroman STRADALE」11〜14号までの連載分までに限って言えば、まずセリカの納車あたりがかなりあっさり描かれている。対ファントム用のスーパーマシンであることは判るのだが、原作ではここで弘にチェリーを譲ったところで、件の240Zのドラ息子と勝負する事になる。スタンドの上司に捨て台詞を残し、店を去った卓は240Z相手にセリカLBターボの“実戦テスト”を行うわけだ。このあたりは名古屋での“ファイヤーバード”との勝負にひとまとめにされた感があるが、手始めにドラ息子の鼻をへし折るシーンは捨てがたかった。
続いて、名古屋から次の目的地、金沢へ向かう途中で女性のヒッチハイカーを拾うあたり。この便乗させた彼女とのやりとりが、旅の中で大きなアクセントとなるのだが……。

金沢の鮨屋の若旦那、哲。チーム“ゼロファイターズ”の一員だ。

ゼロファイターズの集会にゲスト参加中。「俺は酔い始めていた」つーか原作では女性とホテルのディナー後で、明らかに飲酒運転なんだが!
金沢から新潟への道中で出会った、フェアレディSR乗りの初老の男。彼とのエピソードは、終盤の“ファントム”との対決シーンあたりに使われたのかもしれないが――多分、原作の連載はあと2回か3回は続くと思うので、なんともいえないが。

ストーリーの本筋たるファントム追跡劇、そこから外れた部分を削っていったのだろうし、劇画としてのスピーディーな展開という点ではこれでよい。人物やストーリーの描写も決して雑ではない。
もしかしたら、削られた部分の重み、というものを一身に背負う存在として現れたのが、公共放送HNK(原作では“KHK”)のディレクター、須藤なのかも知れない。
名古屋から金沢、新潟と流れてきた卓の目前に現れたその男は、
卓のファントム追跡劇をドキュメンタリー番組として撮りたいと持ちかけてきた――!
(続く)