保険調査員のヤマダさん。

それは架空の人物である。

――こういうことだ。
パッド長昨夜、馴染みのワインバーへ行った。カウンターはけっこう賑わっていたが……騒々しいな、隣の3人連れ。
そのうち二人は早々に引き上げたが……問題は、私の隣に居た――恐らく40代も半ばを過ぎたであろう、けっこう酔いが回っているのは明白なおっさんである。
妙になれなれしい語り口で、むしろ一人で静かに飲みたかった(あるいは、誰か顔馴染みと)のだが――うるさいな、ほっといてくれ!
とも言えず、適当にえーえーハイハイ、とお茶を濁していた。飲んでたのは白ワインだが。
「オニイサン、どッから来たン!?」
「静岡です」(どこだっていいじゃん)
「オー、静岡!? 知り合いに静岡の人いーッぱイいるけど、コッチの人と相性いいンよネ〜」
「はあ……」(そりゃ遠州の人達じゃないのか? 私は駿河だが!?)

「いやもー、ワシも禁酒禁煙したいねんけどなー、二ヶ月ぶりに飲んだけどォ。そーそー、この近くに断酒会の本部があってのー」
「……あー、あそこね、○○病院」(時々近くを通る)
ちょっと待て!? その本部の存在を知ってるアンタは!?

「お名前はァー!?」
「あー……ヤマダです」(あからさまな偽名)
「お仕事はァー!? 何しとンのー!?」
「ん……ホケン、保険調査員です」(って、どんな事をする仕事なんだ!? 「プレイガール」とか「MASTERキートン」とか!?)
「マスター! ママー! このオニイサン、静岡から来たンやてー! ヤマダさんちゅーて、保険調査員やてー」
「え、ヤマダ、さん? あ、ああ、ヤマダさんね」
「わー、ヤマダさーん、今日は来てくれてありがとー」
……店長さん、主任さん、話をあわせてくれてありがとう。

更にもう一度名前を聞かれたが――いっそ二度目は「権田原です」とか「ゴンザレス野々宮です」とか答えてやればよかったかもしれない。
お願いだから静かに飲ませてくれ!(血涙)


――オーダーストップ(ちょっと早めに閉店)を期に、も少し落ち着いて飲める場所へ河岸をかえることにする。
「またいらして下さいねー、ヤマダさーん」
「はーい、また近いうちに」
お互い苦笑。

……その近いうちに、こーゆー「どうしたもんやら」な出会いが――ありそうな気がするなあ!?